冬に気をつけたい膀胱炎

下部尿路疾患とは何かご存知でしょうか。下部尿路疾患とは、膀胱から尿道までの下部尿路に起こる病気の総称です。代表的なものには膀胱炎、尿石症、腫瘍、尿路感染症などがあり、夏から秋・冬にかけての季節の変わり目に猫ちゃんはこの下部尿路疾患になってしまうことが多くあります。今回はこの中の膀胱炎について掘り下げていきます。

1. 膀胱炎とは
 膀胱は内面が伸縮性のあるやわらかい粘膜でできた袋状の臓器で、粘膜が伸び縮みすることによって腎臓で作られた尿を溜めて、尿がある程度の量になると尿道から外へ排出する役割があります。この膀胱に様々な理由から炎症が起きることを膀胱炎といいます。膀胱炎の中で猫ちゃんに多いものが特発性膀胱炎といって、なんと猫ちゃんの下部尿路疾患の約55%が特発性膀胱炎であると言われています。
 膀胱炎の症状としては何度もトイレに行く、トイレ以外の場所で排尿してしまう、尿がポタポタと垂れる、排尿のポーズをとるのに尿が出ない、陰部を舐める、尿の色や匂いがいつもと違う、など様々です。尿が長時間排泄されないでいると腎機能障害、尿毒症など重篤化してしまうので、24時間以上排尿が確認できない状態であればすぐに動物病院へ連れて行くようにしてください。

2. 原因
 多くの膀胱炎は細菌感染が原因で起こります。本来であれば膀胱に細菌は存在しないのですが、細菌が尿道から侵入してきてしまったり、膀胱の中にできた結石などが膀胱を傷つけることによって細菌感染が起こることもあります。わんちゃんに多いのはこの細菌性膀胱炎ですが、猫ちゃんは尿が濃く細菌が繁殖しにくいことが知られています。
 猫ちゃんに多い特発性膀胱炎ですが、「特発性」なので原因がはっきりとはわかっていません。いくつかの要因が重なって発症するようで、特にストレスが原因になっていると考えられています。トイレが汚れていたり、気軽にトイレに行けない状況だったりとトイレに関するストレスはもちろんですが、同居の猫ちゃんとの相性が悪い、引っ越しをした、近所で工事が始まった、などのストレスも特発性膀胱炎の原因になり得ます。猫ちゃんは寒さに弱いので、秋から冬にかけて猫ちゃんの膀胱炎が増えてしまうのは気温の低下がストレスになっているからだと思われます。またストレス以外にも飲水量が少ない、運動不足、肥満であることなども原因になっていると考えられています。

3. 治療方法
 一般的な細菌性膀胱炎の場合は抗生物質の投与と、炎症の具合によっては消炎剤の投与で治療をします。症状が治まっていてもまだ膀胱内に細菌が残っている可能性があるので、自己判断で投薬を中断するのは危険です。膀胱の中の細菌がいなくなるまで投薬はきちんと続けることが大切です。
 特発性膀胱炎の診断は除外診断になるので、膀胱での感染、結石、腫瘍などがない場合に特発性膀胱炎と診断されます。そのために原因がわからず治療が難しくなってしまうこともあります。90%以上の子が無治療でも1週間以内に症状が治まると言われていますが、なんの対策もしないままでいると再発を繰り返してしまう可能性があるため、今後は予防に努める必要があります。

4. 特発性膀胱炎の予防
 予防はまず、特発性膀胱炎の原因になるようなストレスを与えないようにすることが大切です。トイレ環境が気に入らず膀胱炎になってしまう子は少なくありません。まずトイレは飼育している猫ちゃんの数より1つ以上多く設置する必要があるので、足りないのであれば新しいトイレを用意してあげましょう。また猫ちゃんは自分の体長よりも1.5倍以上の大きさで細かい砂を好む子が多いです。猫ちゃんの好みのトイレになるように環境を整えてあげてください。そして、ストレスの原因はトイレ環境だけではありません。猫ちゃんの生活をよく見つめて、その子にあった対策をしてあげることが大切です。
 ストレスの解消を試みると同時に、いつも食べているご飯を療法食に変えてみるというのも再発の予防につながります。オメガ3脂肪酸、加水分解ミルクプロテイン、トリプトファンなど、猫ちゃんのストレスに配慮された成分を含む療法食が様々なフードメーカーさんから販売されているので、是非お気軽に病院にご相談ください。

 今回は下部尿路疾患の中で特に多く見かける膀胱炎の話でしたが、尿石症も患者さんの多い疾患ですので、また後日取り上げていこうと思います。